OS FS 52S サーパスをいじる⑤ ベンチテストは成功かな?
前のブログで「ベンチテストは先延ばし」とか書きましたが、天気が崩れる前にやっちゃえと考えて土曜日の午前中にOS FS 52S サーパスの実験をしました。
飛行場の隅で店開きです。テストベンチのカシューはまだべたついています。
証拠の動画を撮る準備もします。撮影機材はスマホのほかは百均で買ったスマホスタンドだけです。
なお、今回の実験で撮影した動画はYouTubeにアップしています。この記事の下の方にリンクを作っておくのでよろしかったらご覧ください。
クランクケース換気システム非作動時の運転
最初は普通の状態(非作動時)での回り方を確認します。
吸気管に取り付けた換気用パイプに栓をし、ブリーザーニップルからのチューブはテストベンチの下に回します。これで普通にブリーザーニップル付きの4サイクルエンジンとして回る状態になります。
プロペラは飛行中の条件に近づけるため、このエンジンとしては負荷が軽めのAPC11×6、燃料はクロッツのレッドスペシャル20-20です。
まず、全開運転での回転数をチェックします。
実用的な最高回転
手に入れたばかりのあまり使われていないエンジンを壊したくないし実験の目的は力比べではないので無理をしません。
回転が上がりきったところでの回転数は11,600r.p.mですがこの位置で連続運転するとエンジンが壊れやしないかと心配になりますから回転が落ち始めるところまでニードルを戻します。写真はニードルを4コマ(1/8回転、45度)戻し、かつ、回転が落ち付いてからの回転数です。瞬間的に出る最高回転より300r.p.mくらい落としています。
全開運転でのニードル位置を決めたらアイドリングの調整をします。
アイドリングの調整
アイドリングの調整は安全のためにスロットルバルブを開け気味、アイドル調整バルブを取説よりも開いたところ(バルブの端面がハウジングからわずかに出た状態)から始めました。写真のとおり3,500r.p.mくらいです。
このポイントからスロットル開度と混合気を調整していきます。アイドリングが2,500~3,000r.p.mくらいであれば着陸に支障はありませんからあまり欲張りません。
アイドリングの混合気を薄くし過ぎると(適正な混合比に近づけ過ぎると)スロットルを開けたとたんに燃料供給が追い付かなくなってエンストします。荒いスロットル操作をしても止まらず、10秒以上アイドリングを続けてもエンストしない程度を目標にします。
スロットルリミットデバイスを動かして止まりそうな所までスロットルを絞り、その位置での混合気をアイドル調整バルブで調整し、スロットル操作への追従性を確認し、さらにスロットルを絞ってまたアイドル調整バルブをいじるという作業を繰り返します。
2回調整した結果、10秒以上回転が続くアイドリングの回転数が2,700r.p.mになりました。混合気は濃いのですがエンストしないのでこれで良しとします。
低速運転の混合気の濃さを確認するためピンチテストをしました(下の方にピンチテストの様子の動画を貼ってあります)。燃料チューブをつまんだ瞬間かなり回転が上がることが分かります。4サイクルエンジンはピンチテストへの反応が2サイクルエンジンに比べて敏感です。
アイドル調整バルブは前のオーナーが調整したポイントより90度絞りましたがこの辺は好みの問題でしょう。
ブリーザーチューブ内側のオイル
ブリーザーニップルにつなぐチューブは流れるオイルの色が分かりやすくなるように白にしました。気体(ミスト)の流通の抵抗にならないように内径3mmのブカブカのチューブです(ホームセンターで買った)。
チューブの内側に付くオイルの色でエンジン内のオイルの劣化状況が判断できるのではないかと期待したのですがチューブの中を激しく動くガスに吹き飛ばされて付着するひまがありません。写真で見ると燃料本来の鮮やかな赤ではなくて茶色味が掛かっています。
ブローバイガス由来のオイルですから劣化しているんでしょう。YSを除く4サイクルエンジンではスス混じりの劣化したオイルのミストの中という厳しい環境で部品が回ったりすれ合ったりしているということです。こりゃ錆びるわけです。
クランクケース換気システム作動
普通の状態での諸元が取れたのでクランクケース換気システムを作動させた状態での運転の実験をします。
クランクシャフトハウジング下部のブリーザーニップルからのチューブを吸気管のパイプにつなぎます。これで内径1.5mmのニップルと内径3mmのシリコンチューブでクランクケース内部と吸気管内部がつながり、クランクケース換気システムが作動します。
クランクケース換気システムは、実機のブローバイガス還元「ポジティブクランクケースベンチレーション/ Psitive crakcase ventilation/ PCV」に似ているのですが、別に環境に配慮した仕組みではありません。オイルをエンジン内と吸気系の間でやり取りしようとする仕組みですから全くの別物です。
ENYA 41-4Cでは全開運転では変化がありませんでしたが低速運転で問題が起きました。OS FS52Sではどうでしょう。
高速運転は支障なし
全開運転の実用的な最高回転数は11,300r.p.m。一時的に11,600r.p.m以上にまで達します。どちらの数字も非作動時と同じです。ニードル位置も非作動時と同じになりました。
バイパスチューブ内側のオイル
ブリーザーニップルから吸気管につないだチューブ(バイパスチューブ)の内側のオイルの状態をみます。
感覚に頼らずチューブ内のオイルの色を写真で比べようとしたのですが、チューブの中のミストの動きが激しくてチューブの内側にオイルがほとんど貼りつかない状態です。
ガスの動きが激しくなったことは確かです。ブリーザーチューブとして機能していたときよりオイルがきれいになることを予想したのですがその点はよくわからないというのが正直なところです。クランクケース換気システムの効果を視覚的に確認したかったのですがちょっとがっかりです。
理屈で考えるとエンジン内部のオイルは、ピストン・シリンダーの隙間から漏れるブローバイガス由来のオイルよりも圧縮工程と掃気行程(クランクケースが負圧になる行程)で吸気管から供給される混合気由来のオイルが圧倒的に多いと思うんですが確認はできませんでした。
アイドリングで回転は落ちるか?
ENYA 41-4Cで問題があった低速運転の実験に移ります。
OS FS52Sのクランクシャフトのカムギヤより前は軸受けに密着しているのである程度気密が保たれているのではないかと期待しました(ENYA 41-4Cのクランクシャフトはボールベアリングだけで保持されているので空気やオイルが漏れ放題です)。
大丈夫ならいいなと思って、飛行場に行く前にブリーザーニップルから給油ポンプで空気を送り込んで気密テストをするとフロントベアリング回りから「ス―スー」とまではいかないのですが「チチチチ」というレベルで空気が漏れます。
キャブレターの下流側から空気を吸うことになるので悪い影響が出るかもしれません。
危惧したとおり回転が落ちません。換気システム非作動時のスロットル開度で4,200r.p.mです。ENYA 41-4Cのときは6,000r.p.mくらいまでしか下がらなかったのでそれよりましですけど。
一縷の望みをかけてアイドリング時のスロットル開度を絞りました。
うれしいことにアイドリングが下がりました。小さ目のプロペラなのに2,500r.p.m以下で安定して回ります。キャブレターの下流から空気を吸い込むので混合気が薄くなるかと心配したのですがピンチテストをすると濃いことが分かりました。
吸い込みが弱くなっていないかと心配になってベンチを手で持って上に向けてスロットル操作をしてみましたがそれほど影響がありません。これなら機体に積んでも大丈夫です。
ENYA 41-4Cでは気密を確保するため接触型ゴムシール仕様のベアリングに交換したのですがOS FS 52Sではその必要はなさそうです。
もしベアリングを交換するとなると、前蓋だけを外せばよいENYAと違って、このエンジンではシリンダーヘッド以外のほぼ全部をばらさなければならなくなるところでした。
換気システムが非作動のときと作動させたときの動画をまとめてYouTubeにアップしました。
OS FS 52S, bench run for testing crankcase ventilation device クランクケース換気システムの検証
僕は国際派YouTuber(視聴者の7割が日本以外、てことは日本人は見ていない)なので英語の字幕を付けています(中国製品の英語版マニュアルみたいですけど)。英検3級のくせに大それたことをするものです。
運転後はクランクケース後部のニップルから防錆油を注して当座の防錆措置をしておきます。
実験は成功かな
クランクケース換気システムの実験は成功でしょう。少なくとも対策を講じれば運転に支障が出ませんでした。
とはいっても気になることがあります。OS FSα-56の販促資料を見てみましょう。URL: https://www.os-engines.co.jp/line_up/fsalpha56/index.htm
OSはFSα-56でブリーザーニップルを廃止してブローバイガスを吸気ポート付近から吸い込む「オイルリターンシステム」を採用しました。が、FSα-56Ⅱでブリーザーニップル式に戻しました。
運用していて何か不都合があったのかユーザーからクレームが来たのかもしれません。僕のクランクケース換気システムも似たような仕組みなので何か悪影響が出るかもしれません。
クランクケース換気システム搭載のENYA 41-4CとOS FS52Sを運用して様子を見ていきたいと思います。
とりあえず、OS FS 52Sはクランクケース換気システム搭載状態で運転できることが分かったので機体ができるまで保管状態にします。キャブと後ろ蓋を外して中身をアルコールで洗い*防錆油を注します。
* OS FS 52Sの取説には「内部を灯油(ガソリンは不可)でよく洗ったのち」と書いてあります。OSの他のマニュアルを見るとアルコールで洗うように指示しています。エンジン内部はともかくキャブレターにOリングを使っているので膨潤するかもしれない石油系はまずいんじゃないでしょうか。
蛇足
実車ではポンピングロスの低下とかを狙ってブローバイガスを排出する系統にいろんな仕掛けをしています。環境問題への考慮や出力向上に効果があるからそういうことをしているんでしょうが僕のクランクケース換気システムには出力向上の効果は無いでしょう(回転計で分かるほどの差はない)。
文系の人間の猿知恵ですが燃費が悪化する要素はあるかもしれません。
圧縮行程と掃気行程ではクランクケースが負圧になって混合気がクランクケースに流れます。これが吸気ポートに戻ればいいのですがうまくいくのでしょうか。
吸気行程ではクランクケースが正圧になって吸気管に混合気が流れますが吸気バルブが開いていているのでシリンダー内に吸い込まれます。一方、燃焼行程では吸気管に混合気が流れても吸気バルブが閉じているのでキャブから逆流するかもしれません。
ちょっと気になりますね。吹き返しの多さを比べてみればわかったかもしれません。